2022年01月19日掲載
オンライン開催2年目となる2021年大会で最優秀賞を受賞したのは、愛知総合工科高等学校専攻科の「NSX-KAWASAKI-NSX(ASKS)」でした。
昨年の大会では、大会にエントリーしながらもマシンが間に合わず、残念ながら不出走。今年はチームを再編成してチャレンジし、念願の初走行がウイニングランとなりました。
同校を訪ね、コンテストへの挑戦とロボットカー製作の経緯を伺いました。
(現地取材・編集構成:喜多充成/リモート取材・監修:松岡 繁)
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同校は名古屋のオシャレエリアとして名高い星ヶ丘にあり、大通りに面した校舎には生徒の活躍を知らせる大きなバナーが掲げられています。目と鼻の先は「イケメンゴリラ」や「象列車」でおなじみの東山動植物園という好立地です。
「ものづくり愛知の産業界のニーズに対応する」(愛知県教育委員会)ことを目的のひとつとし、工業高校を統合して2016年に開校した新しい学校で、特徴的なのは工業高校3年間に相当する本科を卒業した後も、2年間の専攻科があることです。さらに専門的・実践的な教育プログラムを受けられる専攻科には他高校からの進学も可能となっています。
そしてこの専攻科では、機械系や情報系などコース別の実習のほか、コースの枠組みを取り払った総合実習というプログラムがあり、学生や社会人チームなどを対象とする各種コンテストへの参加が奨励されています。たとえば、毎年琵琶湖で行われる鳥人間コンテストや、秋田県の八郎潟で行われたソーラー自転車レース(2部門で優勝!)、あるいはホビー用ロケットで打ち上げられた350ml飲料缶サイズのロボットを目的地に誘導するCanSatチャレンジなど。生徒それぞれの希望をもとにチームが編成され、アタマと手を動かしながら意欲的に取り組んでいます。
[生徒の活躍を伝える記事が廊下の壁に貼り出されている]
そして、GNSS・QZSSロボットカーコンテストも、総合実習の挑戦対象となるコンテストの1つと位置づけられています。指導にあたった岡村浩一先生に経緯を聞いてみました。
「私は以前、航空宇宙産業に在籍し、自動運転プログラムの開発にも関わっていました。測位航法学会のシンポジウムにも参加し、そこを通じてコンテストの存在は知っていました。GNSS測位によるロボットカーをちゃんと走らせるためには、マシンの製作だけでなく、GNSSの仕組みへの理解や、ソフトウェアによる制御など、やるべきことが多岐にわたり、かなりハードルは高いと思いましたが、意欲的に手を上げてくれた生徒がいたため、昨年から総合実習のテーマとして取り組みを始めました」
[専攻科専門科目指導者の岡村浩一先生(左)と長谷知尚先生]
2020年度には希望者9名で2チームが編成され、週1日を費やして、基礎知識の習得からはじめたと言います。当時から関わる榎本一樹君(生産システムコース専攻科2年)に聞きました。
「本科3年を終えて専攻科に進んだのは、大学より密度の濃い実習ができると期待していたからです。ロボットカーコンテストは小さい頃から遊んでいたのでラジコンカーを扱う実習だと聞き、昨年から取り組みはじめましたが、やはりハードルは高かったです。振り返ってみれば足りないことばかりで、8の字走行どころかウェイポイントを目指せるかどうかも難しいくらいでした。
去年の失敗を取り返そうと今年度も挑戦を決意し、専門の異なる3人に声をかけ、新たなチームで再チャレンジすることにしました」
榎本君の“リクルート”でコンテスト参加を決めたのは以下のメンバーです。
自動車・航空産業コース在籍の加藤薫君は、昨年度は企業から招いた講師に自動車や自動車部品の設計手法を学びつつ、1人乗りの小型車を分解しつつ仕組みを学んできました。
「去年は出られなかったが再挑戦したいと榎本くんから誘いを受け、チームに加わりました。単にロボットカーを作るだけではなく、各々がこれまでに経験のない分野にも挑戦するというテーマも持って取り組みました。」
エネルギー・産業コースの川﨑利葵君は、昨年度は航空機部品となる素材の高精度な機械加工に取り組んでいました。
「制御やスピードに直接関係はありませんが、こだわった部分のひとつが、もとのホンダNSXのボディをなんとか生かしたいということでした。そのため、制御のためのモジュールで厚みの増したシャーシにボディを接合する部品をSolidworksで設計し、3Dプリンタで打ち出しました。またエントリーのための動画編集に取り組んだことも、いい経験になりました」
情報システムコースの髙瀬龍希君は、昨年度は小型の産業用ロボットを使ったフレキシブルな生産ラインの構築制御に関わる実習に取り組んでいました。
「もともとの方針として、メンバー全員で共有できるようなモデルをつくり、そこで開発をすすめるモデルベース開発に取り組んでいまし。これまではC言語やC++を学んできたので、数値計算ソフトのScilab(サイラボ)はなじみがなく、ハードルが高かったです。
ひととおりクルマが完成したらメンバーみなで『どうやったらScilabで制御プログラムを作れるか』を手探りしました。面白かったのは、それまで経験してきたプログラミングでは結果を出力して終わりだったのですが、ロボットカーでは全然違ったことです。ソフトウェアの出来が、現実の世界でちゃんと動くかどうかにダイレクトに関わってくるのは、新鮮な体験でした」
NSXベースの1号機(左)と、ウニモグベースで処理速度も高めた2号機
新たなチームで取り組み、マシンの基本構成が出来上がった夏頃に、大きな選択を迫られる出来事がありました。
「ロボットカーの制御にRaspbery Piを、プログラミングはモデルベース開発で使ってきたScilabをと考えていたのですが、ScilabはARMベースのチップでは動かないことが判明してしまいました」(榎本君)
“ラズパイで行く!”というそもそもの大方針を揺るがす大問題であり、何か起これば今年も出走できない――在学中は一度も出走できない――という可能性すらありました。しかし彼らはこう考えました。
「選択肢としては、このまま行くか、新しいことをやるかの2つでした。が、どのみちうまく行かなかったとしても『変えずに失敗するより、変えてうまく行かないほうがまだいい!』とIntelチップのマイコンに変更してチャレンジを続け、結果、良い方に転んでくれたと思います」(榎本君)
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チームでは過去の大会の映像も確認したうえで、「海洋大の会場は芝のグラウンドなので、幅広いタイヤで地上高が十分にあるマシンがいいのではないか」といった議論もしていたそうです。コロナ後のオフライン開催も見据えた彼らは、今年度で卒業し社会に出ることになりますが、ロボットカーコンテストでの経験を役立てられるような活躍が多いに期待されます。また、残された経験値が受け継がれ、同校がいずれ強豪・古豪と呼ばれるようになる予感もします。取材ご協力いただきありがとうございました。
(了)
[左から、髙瀬龍希君、加藤薫君、榎本一樹君、川﨑利葵君]